個展 画家 堀澤大吉 ~ノスタルジックな世界展2024~【個展終了】
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346.月の旅人/子供たちがいた森
¥300,000
森を吹き抜ける風が色づき始めた。今夜は、女の子の健やかな成長を祝う日だ。森のあちらこちらに人形の店や、月飴の店の小さな屋台が出ている。3才~7才になった女の子は、お祝いに人形と月飴がもらえるのだ。普段は静かな森に、可愛い笑い声や話し声が聞こえている。大人の足元を光る月飴を持って、人形を抱えた小さな影が、楽しそうに走り回っている。大人は、そんな彼女たちの姿を眺めている。年に一度の青い森の特別な夜は耽けてゆく。
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344.月の旅人/季節送りの宴
¥240,000
今年もこの季節がやって来た。エピキュリアンの好きな季節だ。薄紅の雪の中で酒を飲み、春を見る。今、僕達の目の前に春はいるけど、この時は短い。じきに背を向け静かに去ってゆく。だから、この泡沫の春の刻を楽しむのだ。目の前の春はときめく未来からやってくる。その時に僕たちは又、エピキュリアンという桜人になる。
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343.月の旅人/月玉絵塗り
¥240,000
今、手の中に不思議な球体がある。見る角度によって、朧げな輪郭が見えたり、見えなかったり、少し重みがあって、ほんのり温かい。確かに球体を持っている感覚はあるのだ。月の光から抽出して作られた絵の具を塗れば、目に見える形として現れるのだが…友だちの球は絵の具を塗られ、その形が見え始めている。僕はもうしばらく、手の中の球体の不思議な手触りを楽しんでいよう。
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342.月の旅人/月光採掘
¥180,000
その昔、人は石油というものを得るために、深い穴を掘る機械を大地に設置した。今、この人たちが掘っているのは、石油ではなく、大地に染み込んだ太古からの月の光、いわば、オセンコップという月光の時の粒子を掘り出している。しかし、この採掘が厄介だ。バルブを閉じたり開いたり、繊細なレバー操作も大変だ。古い機械だから良く故障する。でもこいつで採掘すると、上質の月光のオセンコップが手に入る。これも月光文化の一つだ。
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340.月の旅人/夜風
¥180,000
いつの間に眠ってしまったのだろう。暑さから逃れるように、木陰に張ったハンモックは、とても居心地がいい。本を読みながら、涼風の中で僕の意識は途切れてしまったようだ。今は、からだを優しく撫でてゆく微風で少しづづ目覚めようとしている。月が昇り、青い月明かりの中で、僕は、眠りの余韻を楽しみつつ、夜風に身を委ねている。こういう時の流れに浸るのもいいものだ。
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339.月の旅人/たんぽぽ月夜
¥180,000
少し前まで、家の裏にある広い野原は目にも鮮やかな黄色のたんぽぽが絨毯のように咲いていたのに、今日は魔法みたいにフワフワの真っ白な綿毛に変わっている。月の光の下で見ると冠毛の群れは雲みたい。時折吹く風が冠毛を巻き上げると雪みたい。歩く度に足元から冠毛の雪が舞い上がる。僕は嬉しくなって、走ったり飛んだりたんぽぽの種蒔のお手伝いだ。疲れたら、まだ黄色いたんぽぽを見つけ食べる。ちょっと、苦くておいしいぞ!
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338.月の旅人/聞耳月夜
¥180,000
“聞耳月”って知ってる?満月の夜、草原を友だちと散歩している時、知り合いや、誰かの噂話や悪口をしていると空から月がゆるゆると、君たちのうしろに降りてくる。気づかないうちに、月に包まれどこかへ連れていかれるんだ。だから満月の夜、草原を散歩する時は、いやな話はしない方がいいよ。月は楽しい話が好きなんだ。月は地上の声に耳を澄ましているからね!
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337.月の旅人/好きな場所
¥180,000
今夜は雲が低い。水晶木の梢が見える。あたしは、ひとりになりたい時や友だちとケンカをしてしまった時に、ここに来る。誰にも教えたことのない、心落ち着く、お気に入りのあたしだけの秘密の場所だ。昔からここに横たわる枯れた丸太に腰掛けて周りの風景をぼんやりと眺める。あたしの目の前の雲が形を変え、時折吹く風が気持ちいい。たゆたう心が少しづづ落ちついてゆく。あたしは、やっぱりここが好き。みんな、それぞれ好きな場所を持っていればもっと優しくなれるのに…
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336.月の旅人/青き森の夢の記憶
¥180,000
季節が巡る度に、この森で、何度も夜を明かした。朽ち果てた大きな丸太が横たわる、ここがいつもの場所だ。小さな火をおこし、それぞれ好きな場所に腰をおろす。持って来た食料を調理し、焚火を囲みおしゃべりしながらの食事。お湯を沸かして、お茶を入れ、ゆったりとおしゃべりを楽しむ。そのうち口数も少なくなり、途切れ、途切れの会話。そしてゆらぐ炎を見つめている。耳を澄ますと梢を渡る風、その風が葉を揺する音、小さな生物の歩く音、枯れ枝が落ちる音、それに焚火の時折爆ぜる音が混ざる。こんな時の流れは心のわだかまりを解きほぐし、朧げな燐光のような安らかな気持ちへ導いてくれる。まるで、青き森の夢のように…
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335.月の旅人/手鞠月
¥180,000
遠くの島影から昇ったばかりの月をみてて思いついた。いっしょにいる友だちに僕の前に立ってもらい、腹這いになって、目線を低くすると地上に近い月より友だちの方が大きく見える。友だちの足の間に月がある。そのことを告げると友だちは、月を鞠に見立てて、鞠つきの真似をしてくれた。おおっ、月が弾んで見える。たわい無いことだけど、僕たちは月が高く上がるまで交代で、この遊びを楽しんだ。
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334.月の旅人/月の出間近
¥180,000
月の出の時間が迫っている。東南の山の頂から月を出さなくてはならない。この山道はキツイ。まだ寝惚けている月は、明るくなったり、暗くなったり、ゆっくり明滅している。山の上に着くまでに、しゃきっと目覚めてくれよ。そんなことを思いながら、僕たちは足元の悪い山道を汗をかきながら、満月を運んでいる。月の出には、時間どおり、月を夜空に浮かばせなくてはならない。満月は月の中でも一番重い…
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333.月の旅人/十五夜ワインで乾杯
¥180,000
1時間ほど前に、昇った月光の中で、用意した器械のスイッチを入れた。この装置は今夜のために、ずいぶん時間をかけて組み上げたものだ。器械は静かに振動しながら月光の中の粒子を集め、その中でエーテル化させてワインを抽出してくれる。大きいフラスコに月光ワインがずいぶん溜まった。そろそろ飲み頃かな?グラスに出来たての輝くワインを満たし乾杯だ。“十五夜ワインに乾杯”素敵な夜の始まりだ…
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332.月の旅人/稲垣足穂の友だちがお月様に変わった話
¥180,000
ある夜、友だちと散歩しながら、お月様の悪口を云った。友だちがだまっているので「ねぇ、そう思わないか?」と云いながら横を向くと、お月様であった。逃げるとお月様は追いかけて来た。曲がりかどで自分を押し倒して、その上をころんで行った。自分はアスファルトの上に板になって倒れていた。 ※稲垣足穂という幻想文学者の短編小説中の一文である。おもしろいので私なりの解釈で絵にしてみました。
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330.月の旅人/三日月兎が囁く夜
¥180,000
学校の図書館で、僕たちのいる、この世界の伝説が記された古い本を見つけた。言い伝えの中の一つに「三日月兎」というのがある。ある条件を満たす場所を見つけ、風の無い夜、そこにある大きくて一番高い木に登ると会うことができるというものだ。そういう訳で僕たちは、この大きな木のてっぺんに近い太い枝の上にいる。一人だと恐いので、友だちも連れて来た。夜空には生まれて間もない三日月が出ている。ぼんやり眺めていると、いつの間にか金色に見える、耳の長い女の子を座らせた三日月が、手の届きそうなくらいのところに浮かんでいた。最初はびっくりしたけど、“三日月兎”は、とても優しかった。鈴がなるような声で、僕たちと、しばらくの間話しを交した。気がつくと、彼女は消え、遠くに三日月が浮かんでいる。僕たちは不思議な気持ちのまま木から下りたけど、明日になれば今夜の出来事は、きっと夢だった、と思うんだろうな。
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329.月の旅人/月磨き
¥180,000
夜空に月が無いのは一夜だけ、新月の時だ。この夜だけは、星が元気に騒ぎだす。ここはさまざまな月を保管して管理するところだ。夜空を日々、形を変化させ一廻りした月は、ここで手入れされて磨かれる。それが新月の一夜だけなのだ。明日の夜になれば、雲を纏わせ、空へと送り出され、二日月から始まって、三日月、やがて満月へと、壮大な夜空のアニメーションを繰りひろげるのだ。
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327.月の旅人/妙音天の想い
¥180,000
大気が微かに流れているのか、いないのか、風の胞子が弾けて、風が生まれそうな曖昧な大気の中で、静かに目を閉じ、呼吸を整える。耳鳴りのような音の中に、微かな旋律が混ざる。夜が膨らみ、朧な燐光と香気に包まれ、現世と幻世が重なる。旋律は光となり、嫋々と世界を満たす。これは那由他の彼方、須弥山という山の頂で妙音天が奏でる琵琶の音なのか…
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326.月の旅人/風と重なる午後
¥180,000
僕と弟は四つ違いだ。僕は弟が可愛くてしかたない。どこに行くにも一緒だ。今日は近くにある丘にやってきた。弟はゴキゲンみたいで、途中で拾った風草の枯木を振り回しながら、何やら歌っている。弟の足に合わせ、ゆっくり歩く。つないだ弟の手があたたかい。ゆるやかな坂道をのぼり、火照ったからだに丘に吹く風が心地良く、吹き抜けてゆく。そんな僕たちを父さんはニコニコしながら見ている。
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325.月の旅人/月とアンモナイトの記憶
¥180,000
夜更けなのだろう。何となく薄明るいのは、たぶん月明かりのせいだ。波の音がするのは、砂浜を歩いている。それも、沙漠のように広大な砂浜だ。波打ち際に、夜の生き物のように横たわる、夜光虫で光る、巨大なアンモナイトの化石があった。誰かの安らかな温もりの腕に包まれて、私の幼い頃の夢見がちな記憶を紐帯する、過去の記憶と未来の夢。それはサジェスチュン(暗示)のように私の中で旅をする。
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324.月の旅人/小さな星空
¥180,000
じいちゃんの家のガラクタ箱の中から、おもしろい物を見つけた。「壊れているけど、もっていっていいぞ!」お言葉に甘えて頂いてきた。これは僕の宝物になりそうだ。調べてみると、配線が一本切れ、レンズが二つの金具からずれている。僕は丁寧にこれを修理し、友だちを誘って丘の上に作った秘密の隠れ家にやって来た。いよいよ試運転だ。電池を入れ、そっとスイッチを押す。いきなり回りが明るくなって、見回すと驚いた。僕たちを囲む木や葉っぱ、友だちの顔にも、僕の顔にも、あやかしの星がひしめいている。風が吹く度に葉に映る星が陽炎のように揺れる。星を閉じ込めたこの機械仕掛けは、まるで夢のオマージュだ。よもすがら、僕たちはこの小さな星空を楽しんだ。
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323.月の旅人/ガラスの月
¥180,000
月を31枚のガラス板が合わさった球とする。最初の1枚を剥がすと、その1枚は新月だ。2枚目を剥がすと二日月、3枚目は三日月と順を追って剥がしてゆくと、真ん中あたりで満月が現れる。やがて月は痩せ細り、又新月となる。月照感覚というのは、人のからだの中に月の時間を刻み、成長するオウムガイのように、サーカセプタンとして記憶される。この瑠璃のような月と、どうかかわるのか、それが人の幸福に大きく影響してくるのではないかと考える、今日、この頃である。
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322.月の旅人/露隠(つゆごもり)の葉月
¥180,000
先生がパイプに葉を詰め、火を入れたようだ。煙のいい香りが漂ってきた。僕は本を読んでいるふりをして、少しだけその香りを吸い込んでみる。ボーとして何か不思議な気持ち。ここは先生の研究室の片隅にある資料室だ。僕の先生は博物学者で、色々な事を教えてくれる。僕はそんな先生の下で学ぶ、言わば弟子みたいなものかな。11月になって外は少し肌寒くなってきたけど、研究室の中は季節を問わず快適だ。静かな時間が流れてゆく。ただ一つ困るのが、あまりに居心地良過ぎて眠くなることだ…
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321.月の旅人/リべラリストの午後
¥180,000
そよ吹く風に身をまかせ、くつろいでいると、いきなり一陣の風の塊がぶつかってきた。風は僕をもみくちゃにして擦り抜けて行った。振り返ると、草を大きく揺らし、遠ざかる風の後姿が見えた。ここは太古にたくさんの隕石が落ちた時にできた、クレーターの高知だ。今は時が過ぎ、数え切れない季節が巡り、緑の大地になっている。遠くの山は青く霞み、雲が形を変えながら流れてゆく。僕は受信装置のように、大自然の声を聞き、透明で自由な風になり、意識を解放する。
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320.月の旅人/月と夜風と夜想曲
¥180,000
夜が東の空からやってきた。周りは遮る物の無い丘の上の野原。今夜は春も終わりに近づいた過ごしやすい夜だ。眼下には、月を反射して、細波をたてる湖が見える。もってきた蓄音機に針を落とす。先ほどのワインで、火照ったからだに遠慮がちな風が気持ちいい。時雨心地になりそうだ。月光と草の芳香、夜想曲と風の中に身を委ねていると、泥む心が解けてゆく。
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319.月の旅人/草叢(くさむら)の月
¥180,000
友だちと3人で、野原を歩いていた時のことだ。どこかで誰かが呼んでいる。耳を澄ますと、少し離れた草むらの方から、その声はしてくる。おまけに何やら光っている。おそるおそる近づいてみると、そこに月がいた。驚いている僕たちに月は言った。「草の罠に捕まっちまった」「すまないが、この罠を外してくれないか」罠を外してやると、「ついでに夜空に放り上げてくれないか」いわれるままに3人で月を抱えて1、2の3で放り上げた。月はそれっきり落ちてこなかった。「そういえば今夜は満月だった」独り言のようにぽつり、と友だちが呟いた。